JBBA NEWS

2021年4月号(VOL.579)

最新の第316便は 栄さん烏森発牧場行き

吉川 良/よしかわ まこと

 昔のこと、「時間、あるかね?」と、社台ファームのボス、吉田善哉さんから電話がくると、それは美浦トレセンへ一緒に行こうよという誘いだった。それでよく同行をした。美浦へ着くまでの車中、善哉さんは「言葉」についての話をするのが好きだった。例えば、「草鞋(わらじ)を脱ぐ、というのはどういう意味なのかね」といきなりの質問を私にぶつけてくるのだ。「旅を終えるという意味もあるし、各地を回り歩いていたバクチ打ちが、或る土地に身を落ち着けるという意味も」と私が言うと、「おお、さすが、売れないけど作家だ」そう善哉さんは笑う。「売れない」は余計だけど、本当だから仕方がない。(中略)2021年3月2日、2001年の日本ダービーとジャパンCを勝ったジャングルポケットが、北海道沙流郡日高町のブリーダーズ・スタリオン・ステーションで死んだ。23歳、老衰のようだ。それを知ったとき、ジャングルポケットを預かっていた渡辺栄調教師の顔が浮かんだ。ダービーを勝ってジャングルポケットが地下馬道へ戻ってくるのを待つあいだ、私と握手をしたときの顔である。栄さんは顔を少し赤くして、ふるえていた。それも昔のこと、新潟の古町のバーで、私は栄さんと二人で飲んだことがある。もし自分が馬を持ったら、どんな名前をつけるかなあとバーのママが言い、「おれなら牡でも牝でも、ビクビク」と私が言い、「いつもいつも、おれ、気をつかってないと生きていけないぞって、びくびくしてる」そうつけくわえた。そのとき、栄さんが握手をしてきた。それを私は、何年過ぎてもおぼえている。「わたしも、たぶん、ビクビクという名前をつけるのが、いちばん気持ちに正直かもしれない。ほんと、いつも気を使っていないと、自分は生きていけないぞって思ってきた」そんなふうに栄さんが言い、栄さんと私は友だちになった。(略)

第121回は「同期」 第5コーナー ~競馬余話~

有吉 正徳/ありよし まさのり

 21世紀最初の日本ダービー馬ジャングルポケットが3月2日に死んだ。23歳だった。1998年5月7日、北海道早来町のノーザンファームで産声をあげた。父は凱旋門賞馬のトニービン(IRE)、母はダンスチャーマー(USA)という血統だ。JRA栗東トレーニング・センターの渡辺栄厩舎に所属し、主戦は角田晃一騎手が務めた。2001年にダービーを制し、同年秋にはジャパンカップでも優勝した。日本調教の3歳牡馬がジャパンカップで優勝したのは40回の歴史の中で、1998年のエルコンドルパサー(USA)、2010年のローズキングダム(2位繰り上がり)、そしてジャングルポケットの3頭だけだと筆者。2001年の3歳馬は粒ぞろいだった。アグネスタキオン、クロフネ(USA)、マンハッタンカフェと、ジャングルポケットのライバルは多彩で強力だった。4戦4勝で皐月賞を制したアグネスタキオンはそのまま引退、種牡馬になったアグネスタキオンは2008年にJRAのリーディングサイアー、1957年のクモハタ以来51年ぶりの内国産リーディングサイアーとなった。現役時代に菊花賞、有馬記念、天皇賞・春を制したマンハッタンカフェも2009年にJRAリーディングサイアーになった。外国産のクロフネはNHKマイルカップ優勝後、ダートで驚くべき走りを見せ、種牡馬としても大成功した。種牡馬になったジャングルポケットは「当たれば本塁打」という一発屋タイプだった。トーセンジョーダン(天皇賞・秋)やオウケンブルースリ(菊花賞)、ジャガーメイル(天皇賞・春)などの活躍馬の父となった。2011年のJRA種牡馬ランキングでは5位クロフネ、6位マンハッタンカフェ、7位ジャングルポケット、8位アグネスタキオンとそろってトップ10入りしていた。1998年生まれの名馬たちが見せてくれた素晴らしいドラマに一つの区切りがついたと筆者。

第133回は「森喜朗氏発言によって ~問われるジェンダーイコーリティー~」
ホソジュンのウマなりトーク

細江 純子/ほそえ じゅんこ

 森喜朗東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の女性蔑視発言がメディアで取り沙汰され、結果として辞任に…。ジェンダーに関しては、私自身には騎手となった時から常に付きまとっていた問題。当時は、なぜ世の中というのは女性・男性という括りオンリーで人を見るのか?と疑問を抱き、人は性別ではなく個々として見るべきと内心思っていたと筆者。確かに男性と女性では、生まれ持っての個体差があるのは事実で、そもそも体の作りが違うのだから、その点までを否定するのはナンセンスだとも感じるようになったと筆者。
 以前ではここまで取り上げられなかったと思う1つの発言に、こうして論議がなされたのは、日本でも働く女性が増え、また国際社会になってきた証とも取れるものであり、非常に喜ばしいことにも思えると筆者。
 今年の3月、JRAにまた新たな2人の女性騎手がデビュー。96年にデビューした私たちから数えると9人の女性騎手が誕生。わずかな数ではあるが、少しでも増えることが大切であり、その状況がジェンダーによる違和感を軽減する要因になると個人的には感じていると筆者。

第148回は『いつかは悲しくなるのだろうけど』北海道馬産地ファイターズ

村本 浩平/むらもと こうへい

 数年前、静内へ取材に向かう道中、朝食を買うために新冠のセブンイレブンへ立ち寄った時、岡田繁幸さんと出会った。この業界で岡田さんほど、声をかけやすい人はいない。いつも、快活な笑顔を返してくれるだけでなく、こちらが何もしていなくとも労いの言葉や、自分の身の回りに起こった楽しいニュースを切り出してくれるからだと筆者。
 別れの挨拶の後、ATMから戻ってきた岡田さんの手には、払い出されたばかりの一万円札が握られていた。「馬券の調子が本当にいいし、今日も当たると思うからもらっておいて」と、「今日の早い時間のレースに、自分の馬が出る。人気にはなっていると思うけど、多分、勝つよ」。岡田さんと同じ嬉しさを共有したいとの思いから単勝での購入を決めた。
 JRAのサイトで確認すると、岡田さんお勧めの馬は快勝。すぐに岡田さんの携帯に電話をかけて、「ありがとうございます!」と伝えると、「良かったねえ!また、牧場にも遊びに来てください」と弾んだ声で言葉を返してくれた。岡田さんとの楽しい思い出は幾つもある。それでもいつかは、涙が止まらない程に悲しくなるのだろうけどと筆者。

第148回は『コロナ下での生活』馬ミシュラン

小山内 完友/おさない ひろとも

 世界的な新型コロナウイルス蔓延下での生活も、すでに1年が過ぎた。当方、根っからの新聞記者気質なもので、感染者に対する差別心だとか恐怖心は微塵もなく、療養、隔離生活から復帰した感染経験者に会うと、どんな状況だったのか、直接経験談を聞きたくてたまらない。共通したのは味覚と嗅覚の喪失。経験者曰く「何かを口にしている間隔はあるが、味も匂いもないから、何を食べているのか全く分からない」と口を揃えて言う。一方、品行方正な生活を送っていたにもかかわらず、感染するとそういう目で見られてしまう風評被害も避けられないようだ。
 このコロナ下で各地の地方競馬は活況だった。特に高知競馬は、3月16日に行われた第23回黒船賞で、レース単体6億4,180万8,500円の売上を記録。ハルウララに武豊騎手が騎乗した、YSダービージョッキー特別の5億1,162万5,900円の記録を17年ぶりに塗り替えた。また、1日の総売上の記録も、1月27日に記録した13億8,487万100円を約3億円上回る、16億2,188万2,700円と、記録更新している。しかし、今の状況を手放しでは喜べない。2020年の場外発売は構成比99.3%、その内97.2%が在宅投票によるものである。JRAインターネット投票、SPAT4、オッズパーク、楽天競馬、これら在宅投票には当然発売手数料があり、実際のところ本当の勝者は分からない。これはコロナ以前からの課題でもあり、一時再開も出足は鈍かった。結局のところ「競馬場に人を呼ぶ」という課題は、相変わらず課題のままなのであると筆者。

協会会議

・2021年(令和3)年度通常総会
・河野会長挨拶(要旨)
・第4回河野洋平賞は(有)長谷川牧場が受賞

トピックス

・JBBA2020年(第42期)生産育成技術者研修修了式
・2019年軽種馬の全国農業産出額は487億円
・2021年サラブレッドせり市場日程(予定)
・ボストンハーバー(USA)の死亡について

生産対策関連

・2歳未売却馬実態調査(2019年生産馬)

種牡馬事業

・STALLION NEWS ARCHIVE(スタリオンニュース・アーカイヴ)

地方競馬ニュース

・2020年地方競馬開催の概況(1月~12月)
・第22回JBCは盛岡競馬場で開催
・2021年度ホッカイドウ競馬スタリオンシリーズ競走
・2021年度ホッカイドウ競馬重賞競走日程
・2021年2月 地方競馬場の売り上げ

生産関連ランキング

・2021年3月各種ランキング

From 競走馬のふるさと案内所・連絡センター

レポート(日高案内所・胆振連絡センター・十勝連絡センター・東北連絡センター・千葉連絡センター・南九州連絡センター)

The First Win
 JBBA 会員生産の初勝利馬一覧(2021.2.14 ~ 2021.3.20)

表紙

・カレンロマチェンコ 昇竜S(OP)優勝
・JBBA種牡馬マクフィ(GB)産駒 カレンロマチェンコ紹介
・JBBA種牡馬ヨハネスブルグ(USA) ナムラカメタロー総武S(OP)優勝
・2021 北海道市場ポスター

カラーグラビア

・JBISライブ中継 JRAブリーズアップセール
・JBIS for Tablet

JAIRSコーナー((公財)ジャパン・スタッドブック・インターナショナルコーナー)etc

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