Voices from Veterinarians ②

先輩馬産地獣医師の声②

「職責は重いが、何ものにも代えがたい喜びがあって、獣医師として幅広い経験を積める。」

野坂拓史さん

日高軽種馬農業協同組合勤務

酪農学園大学卒 2018年採用 診療

1. 現在の所属と業務内容について教えてください。

日高管内でサラブレッドの生産を行っている生産者の多くが加入している日高軽種馬農業協同組合が運営するエクワインメディカルセンターで所長を務めさせていただいております。業務内容は、生産地にいる競走馬(サラブレッド)の生産・育成における総合的な診療と治療です。

2. サラブレッド生産地で働こうと思ったきっかけは何ですか?

やはり、馬が好きだったということに尽きると思います。私は静岡県の出身ですが、実家の近くに乗馬クラブがあり、そこで小学校3年生から馬に乗り始めたのがきっかけです。生産地は大学生のときに馬術部の合宿で訪れたこともありますし、年末年始のアルバイトで厩舎作業をさせてもらったこともありますので、比較的身近な存在でした。

3. 学生時代はどのようなことを意識して過ごしていましたか?

私の場合は獣医師を目指すことを決めた段階で大動物の獣医師を目指していましたので、大学時代の研究室も大動物(牛)を選んでいます。卒業後、しばらくは牛の臨床もさせてもらっていました。

4. 1日のスケジュールはどのようになっていますか?

出産、種付けのシーズンでは朝6時くらいから繫殖牝馬の発情確認検査や妊娠鑑定などを行い、それが終わると繫殖牝馬の子宮洗浄を行います。また、手術の予定があれば、午前中に組み入れることが多く、午後は14時くらいから往診です。季節にもよりますが、診療所に戻ってくるのが20時くらいになることも珍しくはありません。

5. 生産地の獣医師として、どのような症例や業務が多いですか?

多いのは妊娠、出産に関するものですが、当歳馬や育成馬のケガや病気。時には種牡馬を診ることもあります。

そういった一般的に行う一次診療のほか、必要な場合は手術を伴う二次診療を行うこともありますし、当歳馬のマイクロチップ装着、肢軸矯正、感染症、あるいは市場に上場される馬のレポジトリー提出資料の撮影、育成馬の関節鏡手術や休養馬の骨片除去手術、また繁殖牝馬の異常分娩対応など、あらゆる病気・疾患への対応が求められます。

6. 馬の診療で特に気をつけていること、難しいと感じることは何ですか?

競走馬は経済動物であるという部分です。獣医師ですからケガや病気からの完治を目指すということは言うまでもありませんが、予後も考えて総合的な判断を求められることが1番難しいと感じます。ケースバイケースであると同時に、生産者、馬主の声にしっかりと耳を傾けることも必要だと思っています。

7. 忘れられない症例や経験があれば教えてください。

生まれた時から脚元が弱く、競走馬になれないのではないかという馬がいました。装蹄師の方と連携して治療にあたり、競走馬としてデビュー出来ただけではなく、勝つことが出来ました。もちろん、それも嬉しいのですが出走が決まるたびに生産者の方から連絡をいただきました。そういう事は、何ものにも代えられない経験だと思っています。また、逆に判断が遅れて競走馬としてデビューできなかった馬もいます。獣医師を続けていくうえで忘れてはならないことだと思っています。

8. この仕事の魅力・やりがいは何ですか?

色々な経験を積めるという事に尽きると思います。繁殖や仔馬の病気だけでなく、育成馬や現役の競走馬の運動器疾患まであらゆる経験を積むことができます。生産地以外では、ここまで幅広いキャリアを積むことは不可能だと思います。

9. 都市部の動物病院勤務や公務員獣医師と比べて、特徴的だと思う点はありますか?

朝が早いことだったり、例え夜中でも電話一本で呼び出されたりする事です。深夜、日付が変わった頃に呼び出されて緊急手術。そのまま寝る間もなく往診ということもあります。楽な仕事ではないですが、その分経験できることも多いと思います。

10. 生産牧場や育成牧場との連携で大切にしていることはありますか?

治療の方針などで意見が食い違うケースもありますので、とにかく話を聞くという事です。競走馬は経済動物ですから、特殊な場合を除いて、いくら時間がかかっても、いくらお金がかかってもとにかく命を助ければ良いというものではないと思っています。後々のトラブルを避けるためにも、普段から十分にコミュニケーションを取ることは必要だと思います。

11. 馬の獣医に興味がある学生に準備をしてほしいことや、馬の臨床に進む上で学生時代にやっておくとよいことは何ですか?

馬の臨床獣医師を目指す人の多くは馬術部、あるいは乗馬クラブで馬と触れ合った経験があると思いますが、競走馬はリトレーニングされた馬とは違うという事を認識しておく必要があると思います。自分自身がケガをしないために、馬にケガをさせないためにも馬の扱い方については、しっかりと学んでおいて欲しい。

12. 実際にインターンや見学で生産地に来た学生に伝えたいことは?

自分の目で観て、そして判断して欲しいということです。

13. 就職先として生産地の診療施設を考えている学生に、最後に一言。

責任がある仕事であること。そして、楽な仕事ではないこと。その反面、何ものにも代えがたい喜びがあって、獣医師として幅広い経験を積めること。馬の臨床獣医師を目指すうえでは最高の環境だと思います。志のある皆様をお待ちしています。